農業の未来はIoTが支える! IIJが農業IoT実証実験の成果報告を実施

インターネットイニシアティブ(以下IIJ)と「水田水管理ICT活用コンソーシアム」は6月10日、静岡県で実施中のIoTを活用したスマート農業の実証実験について、成果報告の記者説明会を開催した。インターネットサービスプロバイダーやMVNOとしての姿が知られるIIJが、農業分野においてどのような活動を行っているのか、レポートしよう。

今回のプロジェクトは、農林水産省の平成28年度公募事業「革新的技術開発・緊急展開事業」で受託した「低コストで省力的な水管理を可能とする水田センサー等の開発」で、2017年年度から3年計画で実施されていたもの。実験には静岡県やIIJ、農業に携わる企業・法人などが参加して、静岡県磐田市と袋井市で行われた。

静岡県経済産業部農地局によれば、同県において、高齢化や人手不足により、期間的農業従事者一人当たりの農地面積は近年、急速に増加している。水稲経営において田植え、肥料/農薬散布、収穫は機械化により省力化が進んでいるが、水管理は未だに手作業が中心であり、労働時間に締める割合が増加して、負担感が大きくなっている。今回の実験は、ICTの力を使ってこうした問題を解決することを目的としている。

  • 水田センサーの開発と無線通信技術を担当したIIJのIoTビジネス事業部・齋藤透副事業部長

  • コンソーシアムには静岡県をはじめとした各種企業・団体が参加して実証実験を行った

水田の管理では毎日、育成状況や水温に合わせて水量を調節しなければならず、そのために農業従事者は毎日、田んぼを回って給水バルブを開け閉めしたり、水門を開けて排水するといった作業が必要になる。水田があちこちに点在している状況では、この作業だけで毎日、相当な時間と労力がかかることになる。

そこで、今回の実験では、水田の水管理にかかるコストを1/2程度削減することを目標とした技術開発が行われた。具体的には、各水田に設置する水田センサーと自動給水弁を、920MHz帯を使い、無線免許が不要な通信技術であるLoRaWANを使って結び、IoTプラットフォームを通じて農業経営者が遠隔で状況の確認と操作を実施できるようにしている。

  • 今回の実証実験全体のシステム図。IIJは水田センサーとLoRaWAN基地局などを担当している

特に水田センサーや自動給水弁は、コストが高すぎると導入の妨げになるということで、なるべくシンプルで耐久性があり、かつ低価格に抑えるという難題をクリアするべく、何度も試作を重ねて改良が進められてきた。

  • 水田センサーの試作の数々。製造コストは3年間で半分以下に低減できた

  • 数々の改良を重ねてシンプルかつ耐久性も備えるものとなった水田センサー「LP-01」。水田の水位と水温を30分ごとに測ってLoRaWAN経由でサーバーにアップロードする。単3電池2本で1シーズン動作する)

通信にLoRaWANを採用するのは、既存の農業用水位センサーでは、個別に携帯電話網を使った通信機を内蔵することで、毎月の基本料金がセンサーの台数分かかってしまうことが問題であるのに対し、LoRaWANはいわば屋外用の無線LANのようなものであり、基地局が数百台のセンサーを集約し、1つのLTE通信で済ませられるため、大幅なコストダウンが実現できるのだという。また、LoRaWANが共通規格であり他社製品とも互換性があること、Kiwi社の基地局にはビルトインサーバー機能があるため、高価なネットワークサーバーが不要であることも大きなポイントとなったようだ。

  • 台湾Kiwi Technologyが製造・販売するLoRaWAN用ゲートウェイを使用。LoRaWANはいわゆるLPWA技術で、920MHz帯を使って1~2kmくらいは軽く電波が飛ぶ。右の写真のように、基地局をソーラーパネルによる発電で動作させることで、電気のない場所でも利用できる

  • センサー群からのデータを共通化「水管理プラットフォーム」もオープン化することで、水田センサー以外の給水弁や他社センサー類、各種アプリへの接続が可能となっている

ちなみに、今回の実証実験で開発された水田センサーは、IIJが今年3月から提供を開始している「水管理パックS」(39万8,000円:LP-01×10台セット)に含まれる形で販売を開始している。

また自動給水弁や操作アプリについては笑農和(えのわ)が担当し、こちらも3年間で改良を重ね、シンプルながら信頼性の高い、耐久性のあるものが開発された。

  • 自動給水弁やアプリケーションの開発を担当した笑農和の下村豪徳代表取締役

  • 自動給水弁「paditch valve 01」給水弁本体と通信ボックスに分かれており、単1乾電池6本+単3乾電池4本で1シーズン動作する。既存の給水バルブにアタッチメントを介して設置することで汎用性が高まっている

  • 水田センサーのデータを表示し、給水弁の遠隔操作が可能なウェブアプリ「paditch cockpit」。スマートフォンやタブレットから手軽に操作できることで、大幅な労力の削減につながる

静岡県経済産業部農地局によれば、実証実験の成果について、自動給水栓の導入により、水管理のための1日の移動距離が12.8km→6.6kmとほぼ半減、水管理にかかる時間も、2年前と比較して7~8割減と、大幅な削減が確認できたとのこと。ただし、自動給水栓を導入すればするほど効果が大きくなるわけではなく、圃場の分散状況や距離などの要因により、単純な比例関係にはならないことがわかったという。県内の大規模経営体へのアンケートでは、約6割から自動給水戦や水田センサーの導入を希望する声が聞かれたとのことで、大きな手応えを感じているようだ。

  • 静岡県経済産業部農地局の生熊進吾主査(中央)

  • 実証実験は天竜川の下流地域で、日本最大級の規模で行われてた

一方、導入にあたっての不安として、導入/運用コストのほかにいたずら・盗難対応や、水利組合など地域での理解といった地域的・政治的な問題もあり、経営体単位では解決が難しいものについては、行政の対応が必要であることも指摘している。

農業現場の感想について、同プロジェクトに参加しているAプランニングの増田勇一氏は「いままで当たり前と思っていた田んぼ巡りが、自動給水弁の導入で通う回数を減らせて、効率化することもでき、仕事が楽になった」「朝晩で1時間ずつかかっていたものが、時間の短縮、気持ちの余裕ができ、ほかの仕事に回すことができるようになり、導入してよかった」「普及することでもっと費用が軽減できればいい」と語った。

また農業生産法人農健の砂川寛治氏は「コメの他に野菜も栽培しており、水管理と野菜栽培が重なると時間的・体力的に大変だったが、だいぶ楽になった」「秋に収穫したコメのデータと気象データ、水管理データを分析して来年度の栽培に役立てたい」と、将来的なデータの活用についても積極的な姿勢を見せていた。

  • 84箇所・26ヘクタールの田んぼを耕作しているAプランニングの増田勇一氏。朝晩に車で水田を回って毎日水管理を行っていたのが大幅に時間が短縮されたという

  • 農業生産法人農健の砂川寛治氏。各種データを活用した栽培の効率化に大きな期待を見せていた

同県での実証実験は、今後ラウンド2として、磐田市、袋井市に加え、三島市も加え、経営体も5者から10者に増やし、給水だけでなく排水の遠隔化も加えて検証に取り組んでいくという。

昨今は高齢化などにより耕作放棄や棄農といった問題が進む一方で、若手を中心としてICTを導入した農業の効率化・高品質化を進める動きも活発になっている。今回の実証実験はまさにそうした「新時代の農業」の最前線といえるものだ。IIJの齋藤氏は、一見畑違いに見えるIIJの取り組みについて「IoTをやっていく上で顧客の顔が見えづらいことが問題だったが、農家さんと一緒にやっていくことは単純に楽しい」としつつ、「日本の農業の課題に対してICTが果たせる役割は大きいはずなので、そこに我々の力を結集して解決していきたい」と意気込みを語った。すでに販売が販売が開始されている「水管理パックS」をはじめとした同社のIoTソリューションが日本の農業を活性化させていくことを期待したい。

※以下は添付リリースを参照

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添付リリース

https://news.mynavi.jp/article/20200612-IIJ/

2020-06-15T14:54:58+08:00